台湾の派手な廟はお寺ではないの?
台湾に行くと各所に大小様々な廟があるのを見かけると思います。
妙に派手でカラフルな上に、中には電飾を使った装飾などがある廟もありますよね。
「台湾の廟は日本で言う神社仏閣みたいなもの」としか説明していないサイトも多いですが、何がどう違うのでしょう?
神社仏閣巡りが趣味な上に、台湾検定1級を持つ私が、意外と知られていない台湾の宗教事情を簡潔にわかりやすく解説していきたいと思います。
台湾における宗教
日本にも様々な宗教が存在しますが、新興宗教を除き一般的に街中で見かける宗教施設の多くはこの3つでしょう。
日本の主要宗教
- 神道 = 神社
- 仏教 = 寺
- キリスト教 = 教会
特に神社やお寺はあなたの住んでいる町にも確実にあると思います。それだけ日本に馴染み深い宗教なのです。
一方で台湾はどうなのでしょう?
台湾の宗教
- 道教 = 廟
- 仏教 = 寺
- キリスト教 =教会
台湾では道教とで大半を占めます。ここで「廟」が出てきました。廟は道教の宗教施設の一般的な名称です。
ただし台湾の宗教のわかりにくさは、時に仏教と道教が共存し、更にそこに儒教や民間信仰も混じっていることです。
参考例
日本でもかつては神仏習合でした。神様も仏様も一緒で同一の境内の同一の建物に一緒にお祀りしていた時代がありました。
明治元年に神仏分離令が出て、現在では基本的に神社とお寺は別になっていますが、台湾はその辺はゆるく、一緒の施設で祀ることに抵抗はなく、参拝者も気にしていないようです。
道教や儒教ってどう言う宗教?
日本人にはあまり馴染みのない道教と儒教ですが、その概要を仏教と一緒に解説します。
台湾では道教、仏教、儒教のことを三教と言います。(日本では神道、仏教、儒教を指す場合があります)
仏教とは
仏教は日本人にも馴染み深い宗教です。台湾での仏教は17世紀に大陸から伝来し、観世音菩薩や釈迦を本尊とするお寺が建立されてきました。
日本統治時代には一部では神道の神社も建立されましたが、日本政府は台湾人の仏教信仰を尊重すると同時に日本から仏教各宗の僧侶が大挙して台湾に渡り各宗派の仏教の教えを広めました。
このようにして台湾にも仏教の宗派が根付き、台湾独自の九大宗派というものを形成していますし、日本の日蓮正宗、真言宗などのお寺も存続しています。
中には道教や儒教と融合せず純粋に仏教のお寺もありますが、他宗教の神様も境内に祀り、廟との区別が曖昧なお寺も多いです。
道教とは
道教は紀元前の話ですが、古代中国の黄帝と言う人物が開祖したと言われています。紀元前6世紀頃に老子がその教義を広めていった宗教です。
中国を始め、中華系の多い台湾やシンガポールなど東南アジアで特に信者が多く、各地に廟は多数存在します。日本でも例えば横浜や大久保にある媽祖廟は道教の廟です。
日本の神道にもたくさんの神様が存在しますが、道教にも非常に多くの神様が存在し、それぞれご利益が決まっています。
台湾で多く見られる道教の神様は例えば
- 媽祖(海の神様)
- 關聖帝君(商売繁盛、交通安全)
- 王爺(商売繁盛、魔除け)
- 城隍(地域の守護神)
上記のような感じで、名前は違えど神様によってご利益が変わると言うのは神道に似ています。
媽祖を祀る廟の数は諸説あり定かではないですが、300とも500とも800とも、あるいは1000以上あるとも言われています。
關聖帝君も数百あると言われており、王爺は専門に調べている人がいて判明しています。その数は1130です。(中央研究院人文社會科學研究中心)
台湾の街中で良く見かける福徳正神、福徳宮、福徳廟などと書いてある小さな廟はいわゆる土地公で、地域を守る神様です。これは単独で祀る場合も多いですが、大きな寺廟に一緒になっていることもあります。
日本で言えば小さなお稲荷さんの祠やお地蔵さんの位置付けです。
また道教の神様をわかりにくくしているのはそれぞれ別名があるためだと思います。
例えば媽祖。別名を天后聖母、天上聖菩薩、天妃、老媽などとも言い、天后宮などこれらの名前を冠した廟は主祭神として媽祖を祀っています。
道教の宗教施設のことを廟と言いますが、わかりにくいのはこれも別の言い方がたくさんあることです。
台湾で良く使われるのは「宮」「堂」「閣」「庵」などです。古都台南では「府」も使われます。
孔子廟以外でこれらの名前が付いていれば基本的には道教の神様がメインの宗教施設と考えれば良いです。
儒教とは
儒教は孔子が始祖とされる教えで、宗教的な面もありつつ、思想、学問的な要素も強く、また民間信仰との結びつきもある特殊な教えです。
儒教は日本でも江戸時代に朱子学として取り入れられ、広く研究されていた時代もあり、江戸では昌平坂学問所がその学校として機能していました。今も湯島聖堂として東京に残っていますね。
また、孔子を祀ることも多く、台湾では孔子廟が多く存在します。
ここで出てくる「廟」は霊廟、つまり祖先や偉人など死者を祀る施設という意味です。
参考例
例えば高野山奥之院御廟は弘法大師が眠っているところで、ここでも廟という名称が使われています。
道教で言う廟とは若干意味が違いますが、混同しますよね。
湯島聖堂にも孔子は祀られていますし、沖縄を始め日本にもいくつか孔子廟は存在しています。
孔子は学問の神様として受験生などに人気があり、日本で言う天神様(菅原道真)的な立ち位置と考えれば良いでしょう。
民間信仰とは
台湾にある道教の廟では道教の神様はもちろん、仏教の神様や孔子も一緒に祀っていることがあります。
またこのような道教、仏教、儒教の神様を各家庭で祀ることも多く、更に土地の神様やご先祖様も一緒に祀ったりします。
このような状況が一般化し、多くの民に受け入れられていることこそ民間信仰と言います。
例えば旧暦の7月は鬼月と言い、ご先祖や無縁仏などの霊がこの世に降りてくる月とされます。
そしてこの霊が悪さをしないようあるいは供養するために各地でお供物をし、紙銭が燃やされます。特に旧暦7月15日の中元普渡節は盛大でまるでお祭りのようになります。
仏教では盂蘭盆(うらぼん)と呼びますが、中元普渡節は仏教と道教が融合し定着したもので、まさに民間信仰です。
このような民間信仰は、そのまま近隣の寺廟への信仰に繋がります。
台湾にある寺でもあくまで仏教オンリーのお寺も存在しますし、廟でも道教に限定した廟もあります。
しかしそれはよほど有名な寺廟であればネットで調べることもできるかもしれませんが、多くの寺廟については私たちはまずわからないでしょう。
私たち旅行者が知っておくべきことは
台湾の廟やお寺は仏教、道教、儒教が混じり合った民間信仰の宗教施設である場合がある
と言うことです。
忠烈祠とは
台湾には忠烈祠と呼ばれる宗教関係っぽい施設が各地に存在します。
忠烈祠は儒教や道教とも直接的な関係はなく、辛亥革命や日中戦争あるいは霧社事件などの抗日事件などにおいて国のために身を捧げ殉職した英霊を祀る施設です。
正式には国民革命忠烈祠と言います。
日本に置き換えれば護国神社や靖国神社的な立ち位置と考えれば理解できるでしょう。
例えば衛兵交代で有名な台北の忠烈祠は、日本統治時代は台湾護国神社が鎮座していました。イメージそのままですね。
忠烈祠は各自治体に基本的に1ヶ所存在しているようです。これも日本の護国神社と同じイメージです。
陽廟と陰廟
さて、ここでちょっと怖いお話をします。
台湾にある無数の廟は陽廟と陰廟と言う2種類の廟に分けることができます。
陽廟とは
道教の正規の神様を祀った廟。ガイドブックに載っているような有名な廟や近隣の人たちが常時参拝しているような廟は基本的に陽廟。
まず街中にある多くの廟は陽廟なので、私たちが気軽に参拝し、見学することができます。
しかし陰廟は滅多なことでは参拝はしない方が良いそうです。
陰廟とは
疫病神や無縁仏、怨霊といったものを祀る廟。祟られることがないように祀っている。
かつての台湾では地中や海岸で遺骨を発見した場合は、こういった廟に埋めていたそうです。無縁仏ですね。
陰廟はその名の通り一般的には日差しが入らない暗く小さな廟が多く、あまり手入れもされていない場合もあります。
陰廟は上述のように祟られないようにお祀りしていますが、ご利益がないと言うことではなく、中には非常に高いご利益がある陰廟もあるようです。
陰廟に願い事をしてもしそれが叶った場合は、絶対にお礼参りをしなければならないそうです。何故ならお礼参りをしないと祟られてしまうからです。
そうしてお礼参りが多い陰廟はやがて明るい廟になり、大きな建物になり、中には道教の神様も一緒に祀るようになり、多くの参拝客が訪れて、陽廟と区別がつかなくなった廟も多いようです。
このように陰廟だったものが転じて陽廟に変化することはあり得ますが、その逆はあり得ません。
陽廟になりさえすれば、我々旅行者も気にせず参拝できます。
有名なところで言うと台南市にある飛虎将軍廟がそうです。
ここでは太平洋戦争の航空戦で敗退した日本人(無縁仏)を祀っていますが、今では立派な陽廟になっています。
→ 【台南市】鎮安堂飛虎将軍廟は台湾でも珍しい日本人を祀る立派な廟
また、正月に参拝してはいけない、カップルで行ってはいけないなど様々なルールがあるらしく、またそういうルールが表示してあるわけでもありません。
暗い、門がない、神像がないなど陰廟と陽廟の区別の仕方は一応あるものの、その線引きが曖昧な廟も多く、わからない廟には近づかない方が無難です。
ただ台湾のどこかで「有應公」「萬應公」「百姓公」などと書いてある廟があったらそれはほぼ間違いなく陰廟です。
有應公とは願い事があれば応えてくれる人(この場合は神様)という意味で、萬應公はたくさんの願い事を何でも叶えるという意味です。百姓公は一般庶民の無縁仏です。
これらの陰廟の神様は陽廟の神様とは違い、願い事を何でも叶えてくれるとされており、「何でも」というのはやばい願い事や違法な願い事でもOKという意味です。
その代わり願いが叶ったらお礼参りをしないと祟られるので、願いが叶った人が多い陰廟は寄進や奉納が増え、やがて祠は立派になっていくという形です。
と、怖い話をしましたが、気にしない人は気にしないで大丈夫です。
ちなみに私は全然気にしていません。
何故なら私は小さな神社が大好きで、中には朽ち果てたようなお稲荷さんや、暗い陰鬱とした場所の神社などやばそうな気配の神社にも数多く参拝しています。
神社参拝数は3000を軽く超えますが、何かに祟られたり、取り憑かれたりしたこともありません。
ただ霊感が強い人や、信仰心のある人や祟られたらやばいと少しでも思った人は陰廟らしき廟には近づかないようにした方が良いでしょう。
私は神社仏閣をはじめ、道教の廟など宗教施設が大好きですし、宗教自体に興味はありますが、どこかの宗教を信仰するということはありません。
台湾9大陰廟
日本ではほとんど紹介されることはありませんが、実は台湾9大陰廟というものがあります。
台湾ウォーキングはこういうある意味マニアックなことを紹介するのが好きな人が運営しているので、需要はないかもしれませんが、ご了承ください。
上の写真をみてください。立派な大きい廟ですが、ここも陰廟なのです。屋台まであります。
ここは新北市の乾華十八王公祠というところで、実は私も以前から絶対行きたかった廟の一つなのですが、ここが陰廟だったとは私も最近まで知りませんでした。
ここが陰廟であるならば、ここの分祠である巨大な犬で有名な乾華新十八王公祠も陰廟ということになります。
このように大きい有名な廟だからと言って必ずしも陽廟とは限らないのです。
さて、台湾9大陰廟を記しておきます。(参考:民視新聞網)
- 乾華十八王公祠(新北市)
- 香山三聖宮(新竹市)
- 烏面將軍廟(彰化県)
- 大里七將軍廟(台中市)
- 鹽水大眾廟(台南市)
- 聖公聖媽廟(高雄市)
- 金斗公廟(宜蘭県)
- 烈女廟(金門県)
- 馬公陰陽堂(澎湖県)
これらは9大というくらいなので、かなり大きな立派な廟も含まれています。うっかり参拝しないように注意してください。
気にしない人は、あえて、これらの台湾9大陰廟を巡拝するというのものまた楽しいかもしれません。
公廟と私廟
陽廟と陰廟とは別に公廟と私廟という分類もあります。しかしこれは非常に難解な分類です。
一般的なイメージで言うと陽廟の多くは公廟で、名前の通り公にされた廟です。しかし我々が見てもわからない大きな廟でも私廟もあるようです。
また、私廟はこれも名前の通り本来は個人宅の1階に祀り、外からも入れるようになっている廟です。しかしこれも地元の人は公廟と呼ぶこともあり、複雑です。
個人宅の私廟の中には占いをする人がいることが多いそうです。人気の場所には行列ができるほどの状態になるそうですが、これらの場所では日本語は通じないでしょう。
しかし個人宅の私廟でも閉鎖的なところもあるようです。そもそも他人の家ですから、ちょっと中には入りにくいですよね。
公廟と私廟については、我々旅行者には区別は難しいですが、陰廟と同じように見た目からして、何かおかしい、怪しいと思ったら近寄らない方が無難です。
廟の参拝方法
台湾の寺廟の参拝方法はもちろん日本の神社やお寺と違います。
観光客がたくさん来るような寺廟では日本語や英語の説明書きがあったりもしますが、一般的なところにはそのようなものはありません。
寺廟によって若干参拝方法(拝拝と言います)が異なる場合がありますが、基本的な参拝方法はこのような感じです。
台湾の寺廟参拝方法
- 基本的に右側が入口、左側が出口
- 門の敷居を踏まずに左足から入る
- 線香を買う(場所によってはろうそく、金紙も)
- 神様の前で三拝(線香を両手で胸の辺りに持ちながら3回礼をする)
- 神様に住所、氏名、生年月日、願い事を伝える(念じる)
- その後、再度三拝
- 線香を1本香炉に挿す
- 両手を合わせて再度三拝
日本の神社仏閣でもそうですが、台湾の寺廟も神聖で厳粛な場所です。まずは最低限のマナーとして帽子を取る、大声で騒いだりしないといったことには注意しましょう。
廟に向かって右側には龍の彫刻などが飾ってあったり「入口」と書いてあったりします。左側には虎の彫刻があったり「出口」と書いてあったりしますが何も表示がなくても右から入ることは覚えておきましょう。
高雄の蓮池潭にある龍虎塔がわかりやすいですね。龍の入口から入って虎の出口から出ます。
線香と一緒にろうそくも売っている場合は一緒に購入し、ろうそくは燭台に置きます。
またお供物の用意がある場合は、お供物置き場にお供えをします。
上記のような方法が一般的で、これを境内の各神様が祀られている場所で行います。
大きな廟ではたくさんの神様がいます。全部には参拝できなくても少なくても主祭神またはご本尊には参拝してみましょう。
でも、よくわからない、面倒だという人は、ただ手を合わせるだけでも良いと私は思います。このような宗教施設は要は気持ちの問題ですから。
また最近は特に台北など北部中心に香炉や燭台が減っているようです。これは空気の悪化を防ぐ環境への配慮なんですね。
そのため北部では金紙を燃やす習慣も少なくなっています。逆に南部ではこれらの習慣は残っています。
金紙と銀紙
金紙は神様に捧げるお金のことで参拝の最後に燃やすのが一般的で、金炉と呼ばれる燃やす場所があります。
ただし台北など北部では燃やさずに金紙箱と書いてある金紙の回収箱に入れるところが多いです。
南部では廟に祀ってある神様の誕生日やお祭りなどの時には盛大に金紙が燃やされます(爆竹も)。また、旧暦の7月(鬼月)の時期になると各家庭では銀紙が燃やされます。
金紙や銀紙のことを紙銭または冥紙とも言います。お札の束のような形で売っていますが、本物のお札を模したものや故人が好きだったものを模した紙の模造品(例えば玩具、車、バイク、スマホなど)もあります。
一般的に金紙が売っていればその廟は陽廟です。
一方で、銀紙はご先祖様などの霊が冥界で使うお金で、銀紙を売っている廟は陰廟です。
金紙は金箔を使っていたり、金箔が貼ってあります。銀紙は銀箔を使っています。
なので台湾南部の廟で参拝する場合は、線香とろうそくの他に金紙も売っていますので、一緒に購入して参拝し、台湾人と同じように金紙を燃やしてみましょう。
参考
日本本土ではこのような風習はあまり聞いたことがありませんが、私が住む沖縄では同様の紙銭があります。
シルカビ = 神様に捧げるお金。台湾で言う金紙。
ウチカビ = ご先祖に捧げるお金。台湾で言う銀紙。
このような紙銭の風習は元は中国大陸から伝わったもので、ベトナムや韓国、香港などでも似たような風習があるようです。
紙銭は中国の唐の時代(618-907)から存在したと言われ、仏教とも道教とも密接な関わりを持ち、今や各国で民間信仰として根付いているようです。
台湾の宗教まとめ
台湾の至る所で見かける廟のことが少しわかったでしょうか?
まとめると台湾の廟は道教の廟ではあるけど、仏教や儒教も合わさった民間信仰の施設の場合があると言うことです。
台湾では民間信仰が盛んで、近所の廟へのお参りの他、有名な媽祖廟や王爺廟などへ定期的に参拝に行く人が多いようです。
有名な廟の周辺は商店街になっていたり、市場があったり、夜市があったりするところも多いです。
信仰心の強い台湾人が多く参拝し、人が集まるのでお店も増えるのです。
廟をゆっくり参拝して周辺の散策を楽しむのも台湾旅行の良いモデルコースだと思います。
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